パリのネオ・ビストロ 

〜ネオ・ビストロの源流と新しい時代の訪れ〜

2009年2月、例年になく寒く雪がちらつくパリで
“ネオ・ビストロ”と呼ばれる店に訪れる。

ネオ・ビストロとは・・・?
内装はシンプル、サービスもシンプルだが温かみがあり、
リーズナブルな価格設定。
ただ、料理は一流のキャリアの実力のあるシェフが作る、
しっかりとしたフランス料理を提供するビストロのこと。
近年パリにオープンするレストランの多くがこのカテゴリーだと言われている。

親しみやすい雰囲気で古くからのスタンダードな料理が
メニューに並ぶ店の多くも“ビストロ”と呼ばれている。
例を挙げるとエスカルゴ、鴨のコンフィ、
コック・オ・ヴァン、ブイヤベースなど。
本来パリのビストロの料理はそれぞれに
特色のある地方料理の集大成といわれている。
各地方出身のシェフが故郷の味として、
地方の名物料理を再現し、週末にはパリ在住のその地方出身の人々が集まる、
哀愁漂う店のことを指すことも多い。
しかし、ネオ・ビストロとはそういうタイプの店とは
一線を画すビストロのことである。

日本でも話題になった料理ガイドの“ミッシュラン”。
“ガストロノミー”=“高級フランス料理”では
このミッシュランの星を獲る事が最終目標とされ、
高級ホテルのシェフも独立したオーナーシェフも
この目標に向かって美食の階級社会を進むしかなかった。
しかもフランスにおける料理は産業でありフランスを代表する芸術である。
そして価格は近年、庶民の手が届かなくなるほどに高騰している。
しかし、高級フランス料理路線以外にも
別な意味でのガストロノミーが存在することを知らしめたのが、
元“ラ・レガラード”のオーナーシェフの“イヴ・カンテボルド”である。
彼の店を訪れた、2001年の秋の時は全てにおいて
度肝を抜かれたのを今も鮮明に覚えている。
なかなか、予約が取れず、ようやく席が確保できたのが夜の10時半。
すでにその日のディナーの3回転目という大盛況ぶり。
熱気にあふれた店内。隣や後ろの人とぶつかりあうほどの小さな席。
黒板に書かれた、魅力的なおすすめメニューの数々。
リーズナブルながらワイン好きのつぼを押さえたワインリスト。
料理はスピーディーな提供だが手が込んでいて、
クオリティーが高く何より美味しい。

そして当時では斬新で驚きのスタイルだった、
肉の大きな田舎風テリーヌを客がテーブルで食べたい分だけ、
切り分けるというの提供の仕方。
当時、彼が示したネオ・ビストロの源流の姿は
今ではこのカテゴリーのスタンダードになっている。
この店では多くの日本人の料理人も働き、
イヴ・カンテボルドの影響を受けている。
以前、ラ・サンテで在職していて、いまも在仏中の佐藤君も
その一人である。彼曰く、イヴ・カンテボルドは
とても情熱的でそして誠実であると語っている。
イヴ・カンテボルドのその姿勢は料理や店作りにも大いに反映されている。

今思うと彼はミッシュランの星を狙い、他と競う料理ではなく、
真の食べる楽しみと喜びの料理を作りたかったのだと思う。

実は僕はラ・レガラードを訪れる1週間前に
スペインの“エルブジ”に行っている。
当時世界最先端のテクノロジーの結晶のような
料理もとても印象に残っていた。
(僕は帰国後しばらくそのエルブジの印象を引きずり、
目指すべきフランス料理の姿を見失うことになる。)

そして、その流れはフランスの星つきの
ガストロノミーのレストランに持ち込まれ、
コンテンポラリーや分子科学料理という
料理にかかわる僕らでもなかなか理解しづらく
一般のお客さんにはもっと分からない料理に派生する。
ネオ・ビストロの安心できる料理の台頭は
そんな料理に対するアンチテーゼ的なメッセージもあったのだと思う。

その後イヴ・カンテボルドは人気絶頂だった、
ラ・レガラードを手放し、
パリ中心部の観光地のサンジェルマンで
新しいチャレンジを続け、現在も時代の寵児であり続けている。

そしてこの2月に訪れたの が、
イヴ・カンテボルドの秘蔵っ子が出した、シェ・ラミ・ジャンだ。
ラ・レガラードを思わせる、ざわめきと店の狭さ。
しかしそれを圧倒するスピーディーな料理の提供とクオリティーの高さ。
バスク出身のシェフ、ステファン・ジェロの繊細でダイナミックな
バスクを感じさせる料理。口元が自然に緩んでくる。

現在パリの料理は成熟期を迎えつつある。
パラスの料理。(豪華ホテルの高級料理) 
街場の星つきレストランの正統派フレンチ。
昔ながらのビストロやブラッスリー。
そしてネオ・ビストロのあらゆる意味で真っ当なレストランの料理。

パリのレストランからは本当に目が離せない。

そして、僕は北海道、札幌でパリのシェフに負けない情熱を持ち、
しっかりと地に足をつけて、
お客様に真っ当と思ってもらえる料理を作り続けよう。
たくさんの笑顔に出会うために・・・。


(2009.04.18記)

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